STUDIO PIN UPS - Nick Wakeman’s Summer

私たちのエディトリアルシリーズでは、イメージが発想や創作に与えるインパクトを深掘りしています。Studio Nicholsonのクリエイティブディレクターニック・ウェイクマンが、2025年春夏コレクションのムードボードを公開し、ホリデーワードローブについて語ります。
(左から右へ)
1. ナディン・ゴーディマー
ノーベル文学賞を受賞した作家ナディン・ゴーディマー。白いハリントンジャケットが本当によく似合っていて、彼女の表情もなんとも優しげ。男性的なアイテムを自然に取り入れているところがとても魅力的です。このコーディネートは私の理想そのもの。深いネイビーのシャツに、少しのデニム、ゆったりとした白のハリントンジャケット、そして片耳のイヤリング。彼女のスタイリングには柔らかな女性らしさも感じられて、シャツとベルトの組み合わせも完璧。旅行と、春から夏への移り変わりにぴったりな装いです。
2. イザベラ・ロッセリーニとスコセッシの奇妙な写真
イメージを探すときは、服だけでなく人物にも注目しています。このイザベラ・ロッセリーニの写真、マスクの下にいるのはマーティン・スコセッシらしいのですが、彼女が彼に恋してるみたいな雰囲気がたまりません。この写真を撮った人には賞をあげたいくらい(笑)。あのマスク、ゴム製なのか金属製なのかすら分からない。そして彼、ネクタイをちゃんと締めてないんですよ? 茶色のスーツにマスクって、もう最高。彼女のランダムなジュエリーも好き。この写真は、私たちの夏向けのガーゼベストCillaの参考にもなりました。全体として、“どこか遠くへ旅している感じ”がすごく伝わってくる一枚です。
3. 白いコートについて考える
SS25では「白いコート」がずっと頭にありました。ただ、“お医者さんが診察しますよ”的にならないように(笑)。白のコートって、ユニフォーム的で目的がはっきりしていて、例えば八百屋さんの白衣や歯科医のスクラブのような魅力があるんです。私たちの NEVIS COATは、日本製のガサガサした風合いのあるコットンを使っています。Helmut Langも、私にとってはすごく魅力的な存在。彼は典型的な服を奇抜な生地で作るのが上手で、Calvin Kleinが“スマートなミニマリスト”なら、Helmutは“ラフなミニマリスト”。このHelmutのルック、すごく清潔感があって、もし彼女が首に聴診器をかけていても驚かないかも(笑)。
4. 『A Bigger Splash』とギリシャの旅気分
『A Bigger Splash』のラルフ・ファインズとティルダ・スウィントンのスタイリングを参考にしました。ラルフは、島で拾った服をそのまま着ているような自然体な感じが良い。一方でティルダはRaf SimonsのDiorを着ていて、彼女のロックスターという役とちょっと合ってないのがまた面白い。私はギリシャに行くと、1982年から時が止まったような古びた服をショーウィンドウに飾っている店を見るのが大好き。そこで不思議なバカンス用パンツやサンダルを見つけるのも旅の醍醐味です。ラルフが映画で履いているショーツもとても良くて、私たちの ELIO SHORTS(ギャザー入りウエスト)で、その雰囲気を意識しています。
5. スピルバーグのショーツスタイル
この夏、私たちのキーアイテムはハリントンジャケットとショーツの組み合わせ。アウターやボンバージャケットにショーツを合わせるのが好きなんです。若き日のスティーヴン・スピルバーグが『ジョーズ』のTシャツを着ながら、完璧にそのスタイルを体現している写真があります。ニットとショーツの組み合わせも良いですね。全部を見せすぎないバランス感が大事。ちなみに最近日本で『ジョーズ』を1~3まで観返していたのですが、ブロディ署長のショーツもとても良いんですよ。
6. カラーに夢中になる季節
サマーコレクションを作るとき、私が夢中になるのがカラーパレットづくり。太陽にさらされて自然に色褪せたような、やわらかく、優しいムードの生地が好きなんです。そして、正直言って「ホリデージーンズ」がなければ、夏の装いとは言えません!
7. 架空のミウッチャ・プラダ
私の中ではこれは“ミウッチャ・プラダが駐車場でホリデーTシャツを着てる”っていう空想の一枚(笑)。もちろん本人じゃないけど、髪型やスカート、バッグの持ち方、すべてが絶妙。この写真からは、“島から島へ旅して、水辺のレストランでゆっくりランチを楽しむ”というムードが漂っています。それにあのTシャツ、旅先でつい買っちゃったような“ちょっと変だけど妙に気に入るやつ”って感じで、見るだけで楽しくなります。
8. 香港にいた叔父のスタイル
私の叔父リックは本当に素敵な人でした。香港に住み、Marks & Spencerの香港店を立ち上げた人。スタイルでいうと、“デヴィッド・ニーヴン×アラン・ウィッカー”という感じ。彼は私のファッション観に大きな影響を与えてくれました。香港から帰ってくるたびにシャツやオーバーオールを持ってきてくれて、それがとても楽しみでした。さらにボタンもよく送ってくれて、母と私はそれを使って私の服を作っていました。この写真でも彼はとても素敵で、特にネイビーのジャージーシャツとブラウンのスラックスの組み合わせが印象的。もう一人の男性も素敵なショーツを履いていますね。
9. インディゴスラブコットンのヒント
この写真は、私たちが使用しているインディゴスラブコットンの参考になったもの。メンズ・レディース問わず、さまざまなアイテムに使っている素材です。シャツのボタンの開け方や、姿勢全体からにじみ出る日差しを浴びたようなリラックス感がとても素敵。
10. ティルダのシャツドレス
ティルダ・スウィントンが着ているこのシャツドレス、大好きです。マスキュリンとフェミニンの要素を自然に融合させた、まさにStudio Nicholsonらしい一着。何の力みもなく着こなしていて、それが夏のスタイルの本質ですよね。シンプルに着るだけでサマになる、考え抜かれたデザインでありながら、リラックスして心地よくいられる──そんなワンピースが、夏には一番必要なんです。